大学院修士2年生が母校の非常勤講師をすることになった話

この記事は豊田高専 Advent Calendar 2021 17日目 兼 TUT Advent Calendar 2021 18日目の記事です.修士2年のこの時期+タイトルの通りなのでご無礼をお許しください.

言い訳としては,まだ12月17日の26時だからセーフ.さらになんか知らないけどパソコンは12月18日って言ってるからこれもセーフ.

どういうこと?

単に母校で非常勤講師の公募が出て,条件を満たしていたので応募して,採用されて,今まさに4I開講「プログラミング言語論」の非常勤講師をしているという話です.

お前は誰だ

詳しくはこのサイトのトップページをご覧いただきたいと思いますが,私は豊橋技術科学大学 大学院 工学研究科 情報・知能工学専攻 博士前期課程2年(長い) 内山慎太郎です.専門は学習支援システムの開発と評価(教育工学)で,来年度からは博士後期課程でPhD取得を目指す予定です.かねてから,豊田高専の教員になりたいと思ってPhD取得を目指しています

私は豊田高専情報工学科を2018年3月に卒業しました.豊田高専在学中はずっと軽音楽部に所属していました.また,(補充)班長,指導寮生,寮メディア委員長のほか,3年間くらい学生会長なんかをやっていて,自称キャリアモンスターとか言ってました.恥ずかしいですね.プロコンとかは出たことなくて,ただただ学内のみで活動していたという感じです.

豊橋技科大に来てからは軽音楽部とJAZZ研究会に所属しています.キャリアモンスターは影を潜め,クラス代表とか厚生会理事とか(これらは特に肩書きとして使えるものではない)だけやってます.研究面では博士課程教育リーディングプログラムに所属していて,授業料免除かつ経済支援を受けながら大学で研究をしています.あと,技科大と直接関係はないのですが,技科大の学生4人でMature Ladyというバンドをやっています.

非常勤講師になるまでの経緯

ある日,いつも通りtwitterを眺めていると,とある先生からDMでJREC-IN(大学や高専の教員採用情報などが載っているポータルサイト)のリンクとともに「GOGOGO」(原文ママ)というメッセージが飛んできました.この,とある先生にはかねてより「僕は高専教員になりたいのです!」みたいな話をしていたのですが,まさかなーと思って求人情報を覗いてみるとこんなものでした.(元々の公募資料は手元にないので,覚えている限りで.)

(6月18日付け)豊田高専で非常勤講師を募集!条件は高専卒以上(情報,電気分野)かつ高専の教育に熱意を持って取り組める人!担当科目は「プログラミング言語論」!締め切りは8月!でも締め切りより前に募集を終了することがあるよ!

この公募はチャンスだと瞬間的に理解しました.というか僕は自信過剰なので,僕のための公募では?とか思ってました.応募するしかねぇ!そこで,僕がやるべきことを次のように整理しました.まず,僕は修士学生なので非常勤講師をやるには指導教員に許可をもらわないと筋が通らないと思い,指導教員に伺いを立てる必要があると判断しました.次に,応募資料の作成です.あとは寝て待つだけ.

指導教員に伺いを立てたところ,流石に少し「大丈夫?」と心配されましたが,指導教員も僕が高専教員を目指していることは承知いただいていますし,本業を滞らせないという約束で許可されました.現時点では,本業を滞らせてはいないと思っていて約束はちゃんと守れているはず.それで,応募資料(履歴書のみだったと思います)をシュッと書いて,郵送しました.この時点で6月の中旬だったと思うんですが,応募締め切りは8月なので,本当にあとは寝て待つだけ.

応募してみたはしてみたが,もちろん僕は修士学生なので採用するにも不安要素が多いと思いますし,他にもっと良い応募者がいらっしゃると即負けるだろうなーと思っていました.実際,かなり早くに応募したにも関わらず,締め切りより前に募集が終了しなかったので僕よりももっと良い応募者来ないかなーと待っていらっしゃったのでしょう.

8月のある日,懐かしいドメインからメールが届きました.お祈りメールかなーと思って開いてみたら,ちゃんと僕宛に採用する旨の通知でした.しかも,僕の指導教員に事前に確認を取っておられたようで,すぐに仕事を指示していただけました.めちゃくちゃ嬉しかったです.これで僕も夢の一部が叶ったわけです.

指示していただいた仕事は,シラバスと教科書の決定,時間割の決定でした.シラバスと教科書は基本的に前任の先生が作成されたものを踏襲させていただき,時間割も仮で決まっていたコマで問題なく授業ができるのでそのままでお願いしました.そして,非常勤講師採用にかかる契約などの事務手続きをし,授業資料の準備を始めて,授業の第1回を待ちました.

どんな授業をしているのか

「プログラミング言語論」という講義を担当させてもらっています.シラバスはこちらです.

授業資料を公開したいところなんですが,権利関係の精査が全然できてないので絶対に問題のない,毎授業の冒頭で出している「今日の内容」スライドを今までの分並べてみます.

第2回

第3回

第4回

第5回

第6回

第8回

第9回

僕の信念として,文章で理解したい人もいるし図で理解したい人もいて,両方カバーすることが大事だと思っています(僕は図で理解したい派).文章で理解したい人は教科書などがあるので,僕のスライドは”できる限り”図を使って作っていたりします.例えば,最初の方ということもあって特に力が入っていたのは下のやつですね.

第1回より.この授業ではこんなスキルが身に付きますよ,っていう話をしました.スキルって厚みを増すことも大事だと思うんですが,薄くてもいいからいろんなスキルを持ってることも大事と思っています.しかも,スキルの中にスキルがあって,それだけでも強くなれると思っている,みたいなよくわからん話をしました.

第2回より.この講義全体の模式図です.テスト問題にも穴埋めで使いました.これを全部やるのが僕のプログラミング言語論です.ただ,各論を掘り下げて学ぶことが全ての高専情報工学生にとって必要とは思えていないので,それぞれ大学や企業へ行ってから学ぶことの助けになればと思ってやっています.願わくば,プログラミング好きになってほしい.

すでに一回中間試験を行い,第1回課題の1次締め切りも過ぎました.今のところ,大きな問題はなく講義を進められていて嬉しい限りです.

特筆すべきこととして,僕がまだ学生の身であることも幸いして時間がそこそこ取れるので,課題を2回以上提出できる機会を設けています.どういうことかというと,最終締め切りの1週間前までに課題を提出してくれたら,採点を早めに返し,修正した上で再提出できる機会を設けています.テストで点数を取ることも重要なのですが,課題を通してスキルを育てることも重要だと思っています.常々,レポートって出したら出しっぱなしでフィードバックされたことあんまりないなー,と思っていたので,いっちょ自分でどれくらい大変なことかやってみることにしました.ただ,何も考えなしにやってるわけではなく,事前に公開されているルーブリックに基づいた評価をすることにしていて,学生さんたちも僕にもメリットがある形をとっています.第1回課題の1次締め切り時点ですでに2人が満点で提出完了,クラスの半分くらいが1次締め切りで提出していて,思ったよりもたくさん来たなと思ってます.早く採点して返さないと.

非常勤講師をやっている感想

第1回目の講義,本当に最初,チャイムがなって「はい,はじめまーす」っていう瞬間が一番緊張してました.みんなどんな学生さんなんだろう,自分の授業はどこまで通用するんだろう,面白いと思ってもらえるだろうか,学生さんに何か一つでも身につけてもらえるだろうか,などなど,色々心配してました.が,結構自分の知ってる通りの高専生で安心したこともあり,もう緊張せずにガンガン授業してます.

「テスト勉強のいらない授業を目指します」なんて言ってしまったんですが,本当にテスト勉強がいらない授業になってる自信はないです.これはやっぱり,従来型講義形式の限界を改めて感じました.というより,自分自身が従来型講義形式を受けるだけでテストに臨めるタイプではないので,そりゃあそうだよなぁと.本心としては,反転授業をガチでやりたいんです.ただ,従来型講義形式の経験もしておきたいと思ったし,反転授業を実際に高専でやれる状況なのかがわからなかったので.

心配しているのは,授業の進みが速過ぎたり,逆に遅過ぎたりしていないかなぁと思っています.割と毎回90分しっかり使ってしまっていて,雑談を挟むタイミングもうまくないし,1コマ目から学生目線では疲れる講義になってるんじゃないかなぁと思っています.意見あったら教えてほしいですね.

いくつか嬉しいこともすでに起きています.twitterで学生さんらしきアカウントを見たりすると,嬉しいことを呟いてくれていて,その度に嬉しさ爆発してます.また,teams経由で質問を色々してくれる積極的な学生さんが多くてびっくりしてます.さらには,授業終わりに結構質問を受けることが多くて,それもすごい嬉しいです.というか,自分は授業寝てる勢でしたし,質問もせずに勝手に自己解決して理解したつもりになったがテストの点はそんなに取れないやつ(テスト勉強もあまりしてない)だったので,今どきの高専生の積極さに感心してます.ただ,願わくば授業中に質問してくれるともっと嬉しかったり.会話で授業が成り立つと一番面白そうじゃない?

修論審査に向けた作業と非常勤講師とバンド活動の並行

僕は高専の学生さんたちからみたら先生なわけですが,大学へ戻れば同じ学生です.学生が学生に教えてるって変に思えるかもしれないんですが,僕は一番良い教育の方法だと思ってます.もっと言えば,先生って何を勉強したら良いかをガイドして必要に応じてサポートするだけでよくて,学生同士で教え合えばいいんですよ.というのは本筋じゃないので本筋に戻ると,僕が学生であるという事実があるわけですね.

そうです,学生,しかも修士2年なのでそろそろ修論を書かないといけないわけです.ところがどっこい,なんと1文字も書いていないのです.今修論どころではない.投稿中のジャーナル論文が2度目の査読から帰ってきて,その修正作業をしてます.加えて,割と現在進行形で実験をしています.

先日予備審査を受けたのですが,予備審査の日の午前中は高専で授業してました.しかも,授業資料の準備が間に合っていなかったので,睡眠時間3時間くらいで.あと実はその前日は豊田高専の同窓会講演会で講演させていただいていました.「絶対眠いから,明日授業サボっていい?」とか学生さんに聞いてしまいました.予備審査はほぼ問題なく,本審査に向けて何か特別な作業をする必要もなさそうなので一安心です.修士論文は1月にできれば1日でドラフトを書きたいと思っています,材料はあるので.

加えて,僕はMature Ladyというバンドも今やっていて,ライブも月に2,3回やっています.今月バカ忙しいのに,さらに忙しくなっている原因だったりしますが,楽しくやっています.今日も実はこの記事をライブ終わりにライブハウスの中で書いていたりします.バンドについては,去年のTUT Advent Calenderで書いているのでどんなバンドかはそれでわかると思います.ちなみにあれから1年経って,今は配信で2曲出していたり,物販でCD売ったりしてます.

はたから見るとなかなか大変なわけですが,すべて自分が心の底からやりたいと思ってやっていることなので,全てが楽しいです.「今しかできないことを,今だからやる」というのがモットーなので,こんなことやってるのは日本中探しても多分自分くらいしかいないだろうという自信があります.師走ということで忙しいですけれど,楽しく今後も頑張っていきたいと思います.

あとなんか,豊田高専で行われるとあるイベントに登壇することが決まりました.さらに自分の限界を追い求めていく.実はどMなのではないかと最近疑っています.

今後どうしていくつもりなのか

今後も非常勤講師を続けて行けたら良いなと思っています.ただ,まずは一度講義を完走した感想を知りたいので(激ウマジョーク),そこから決めたいなと思っています.今年よりも来年の方が絶対に忙しさ的にはマシなので,大丈夫な気はしていますが.

最近は授業資料をなかなか作り溜めできていないのがダメですね.最近はなぜか木曜日の朝だけ3時間睡眠とかになってます.なんででしょうね.年末年始で残りの授業資料と課題設計を終わらせることを目論んでいます.

豊田高専 Advent Calendar 2021 の次(18日目)の記事は@ssssotaroさんの「Parcel v2でなにか」,TUT Advent Calendar 2021 の次(19日目)の記事は服部大生さんの「私流の技科大での生存戦略」です.ぜひ,どちらか1つのAdvent Calenderしかウォッチしてないよって方は両方覗いてみてくださいね!